サブミニチュア管6021Wハイブリッドプリアンプ(1) 2014年11月

本機は最近のアンプ研究成果である1段増幅アンプ初段にサブミニチュア管を採用したものである。1段増幅アンプはそのシンプルな増幅メリットによって、超高域発振に対する余裕のある補正、あるいはアンプの高速化が容易に図れる特長を有する。1段増幅アンプの初段には通常デュアルFETが用いられる。過去のいくつかの開発事例からもその実績は検証済みである。そして、そのFETをサブミニチュア管に置き換えるものである。優秀な基本回路特性に加え、サブミニチュア管によってノスタルジックな音質を得ようとする一連の試みの1つである。

すでに、初段FETをサブミニチュア管に置き換えた1段増幅パワーアンプを開発した。今回は、プリアンプに初段サブミニチュア管1段増幅アンプを適用したものである。初段をデュアルFETとした場合には直流的安定度が比較的容易に確保できる。しかし、ハイブリッドアンプでは初段の2つの真空管に完全にペアー動作を要求するには無理がある。多少なりとも2つの真空管に特性の相違が出る。これは、アンプ出力のDCオフセット増加として現れる。真空管の音はわれわれを改めて魅了するものではあるが、同時に解決すべきそのような課題もある。元来、真空管アンプに直結アンプという思想は希少である。いわゆるトランジスターの直結アンプの優秀さは誰もが認めるところであり、ハイブリッドプリアンプとして直結アンプを実現することには大きな価値がある。

具体的には、ゲインが6.9倍(17dB)の本機では、出力ポイントでおよそ±100mVのDCオフセットが発生する。このDCオフセットへの対処として2つの方法が考えられる。1つの手段は、出力ポイントから出力コンデンサーを通して信号を出力する方法である。出力コンデンサーによってDC成分をカットする方法である。本機ではこの方法を用いている。出力コンデンサーを入れることには時代を逆戻りするようで若干の抵抗を感じるかもしれないが、出力コンデンサー直前まではDC領域の素直な増幅作用が完全に維持され、特性的にはきわめて安定している。安易というよりは賢明な1つの手法である。他の手段はDC負帰還を用いるものである。この手段は「ハイブリッドプリアンプ(2)」で紹介する。

全体構成
本機は電源とフラットアンプからなる簡素なものである。レコードに対応するRIAAイコライザアンプは省略した。

アンプ部回路
アンプは初段に6021Wサブミニチュア管を用いている。使用する能動的な半導体にはメタルキャンシールのトランジスタを多用している。入力から出力に向かってその動作を説明する。入力信号はQ201(6021W)の入力側3極管のグリッドに入る。他方の3極菅のグリッドにはR118(33kΩ)、R119(5.6kΩ)によってNFBがかかる。Q101のそれぞれのプレート電流は定電流負荷用トランジスターQ103(2SA603)、Q104(2SA603)で受け、定電流負荷の余った電流を2段目のベース接地トランジスターQ105(2SA604)、Q106(2SA604)のエミッターに注入している。Q106のコレクターは直接Q111(2SC943)のベースに接続され、終段を駆動する。Q105のコレクターは、いったんQ107(2SA603)を通り、Q108(2SC979)、Q109(2SC979)からなるカレントミラー回路に接続され、終段を駆動する。Q105〜Q109はI/V変換回路である。初段の実質のgmをgm’、終段ダーリントン部の入力インピーダンスをr0とすれば、アンプの裸ゲインはgm’r0である。とりわけ高いインピーダンスr0によって十分なゲインを得ている。本機の裸ゲインはおよそ75dB、クローズドゲインが13dBである。C106〜C110(3.3μF)がDC成分をカットするコンデンサーである。
オープンループ特性

電源/遅延回路部
本機の電源はかなり簡素化している。しいて言えばリップルフィルタに軽いフィードバックがかかった程度としている。これは、しばしば不安定要因となりがちな多量のフィードバックを避けるためである。


<内部構造>
筐体は、t2鋼板の曲げ加工によって高剛性を確保し、鉛薄板による防振材によって効果的なダンピングを得ている。

<特性>
本機の特性は、従来の初段FET1段増幅プリアンプまでにはわずかに届かないが、真空管を使用したアンプとしてはきわめて優秀な特性を得ている。純真空管アンプでは増幅回路として抵抗負荷によるものが多いので必然的に安定な限界フィードバック量がある。これに対し、ハイブリッドアンプではトランジスターの高インピーダンスr0という力を借りているので、アンプの裸ゲインが安定に大きくとれ、初段の真空管動作範囲が狭くなり、その結果、初段差動増幅による2次ひずみのキャンセルと相俟って直線性のよい低ひずみのアンプに仕上がっている。
歪率特性
周波数特性
100kHz方形波応答(上入力、下出力)